約 1,207,331 件
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/144.html
「せつなちゃーん、ちょっと洗濯もの取り込んでくれないかしら」 「はーい、お母さん」 そう答えながら、私は読みかけの本を置いて立ち上がり、自室を出て階下へと降りる。 私がラブの家にお世話になり始めてから、ずいぶんたった。ラブはいそいそと私のことを構ってくれるし、お母さんやお父さんは娘の様に優しく接してくれている。相変わらずの日々。 でも、こんなにも穏やかな日常のなかで、ふとした拍子に浮かび上がる感情がある。波のない凪いだ海が急に時化た時のような…これが不安というものなのだろうか。 「せつなぁ」 名前を呼ばれて、洗濯ものをたたんでいた手が止まる。 笑顔のラブがリビングに入って来て、横に座る。たたむのを手伝いながら、こう切り出した。 「せつな、どうかした?」 「…かなわないわね、ラブには。隠したっていつもお見通しなんだから」 ラブはまっすぐに私を見つめている。 「何考えてたの?」 ラブに不安を吐き出すのは心苦しいけれど、ラブだからこそ、言えるのかもしれない。 「私ね、今とっても幸せなの。でも、幸せ過ぎて時々不安になるみたい。 時々ね、まだ全然この世界に馴染めてないって感じる瞬間があって、すごく怖くなるの…。 この世界から受け入れられていないんじゃないかって。ねぇラブ、私、本当にここにいていいの?」 「当たり前じゃない!」ラブは声を荒げた。 「せつな、アタシの家族や美希タンやブッキーはちゃんとせつなを受け入れてる。それに…」 ラブの両腕が伸ばされ、強く抱きしめられた。ラブの温もりが私を包む。 「例えこの世界がせつなを受け入れなくても、アタシがせつなの居場所になるから」 「ラブ…ありがと」 嬉しかった。さっきまでの漠然とした不安を、ラブの言葉が消し去ってくれたみたい。 「やだなぁー泣かないでよ、せつな。アタシ、せつなの笑った顔が大好きなんだから」 「私もなりたい、私もラブの居場所になりたい」 「…もうなってるよ」 ラブは照れながら、そっとキスをくれた。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/269.html
第12話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。メジロの雛を守れ!――』 「さあ、急がなくっちゃ」 せつなが朝食の支度に駆け回る。 真剣な表情の中に、時折こぼれる笑顔。 まるで踊るように手際よく調理をこなす。 これで完成! 食卓に美味しそうな匂いが立ち込める。 焼き魚と目玉焼き。ご飯に味噌汁。お漬物とサラダ。 手際よく盛り付けて食卓に運ぶ。お茶の温度も香りも申し分ない。 「あら、おはよう。せっちゃん」 「おはよう。美味しそうだなあ」 「おはよう! おとうさん、おかあさん」 圭太郎とあゆみの元に、せつなが嬉しそうに駆け寄った。 夏休み中の朝ご飯のしたくは自分にやらせてほしい。せつなのお願いだった。 始めは軽いお手伝いのつもりだった。やっている中に、その楽しさに目覚めてしまったのだ。 大好きな家族に一番に会える。迎えておはようって言える。喜んでくれる。笑ってもらえる。 前にお母さんに聞いたことがある。お母さんの幸せは何って。 「家族みんなの笑顔を見られることよ」って言ってた。 その意味がなんとなくわかったような気がした。 「毎朝悪いわね、せっちゃん。ラブはどうしてるの?」 「ラブは……お休みの日はレッスンでもない限り起きてこないもの」 「まあ、夜遅くまで勉強してるみたいだしねえ」 「甘やかしちゃダメですよ、お父さん」 微笑みながらせつなは給仕に専念する。一緒に食べようとの誘いを、後でラブと食べるからとやんわり断る。 「いってらっしゃい」 仕事に向かう圭太郎とあゆみに手を振って見送る。軽く後片付けしてから、時計を見る。 「まだ、起きてくる時間にはだいぶあるわね」 ラブの部屋の方を見てからため息をつく。小走りに玄関に向かいシューズを履いた。 朝のお散歩に出かける。これも――最近の習慣だった。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。メジロの雛を守れ! ――』 河川敷を散策する。 川のせせらぎ。 新緑の木漏れ日。 朝の柔らかい日差し。 小鳥のさえずりと――犬の鳴き声!? え? 「きゃあ、止まって~」 向かってくる一匹の大きな犬。正面は危ないと判断して廻り込んで抱き止める。 「ごめんなさい、せつなちゃん。ありがとう」 「ブッキーじゃない、どうしたの?」 大きな黒い犬と黄色いワンピースの似合う小柄な少女。犬の散歩というよりは、猛獣に引きずられた被害者といった風体だった。 「ほんとうにごめんね、せつなちゃん」 「たいしたことないわ」 預かってる犬の散歩の途中にせつなを見かけて、その犬が嬉しがって駆け寄ったらしい。 大きすぎるため人を怖がらせるといけないので、早朝の人気の少ない道を選んでいたのだ。 「おとうさんなら片手で簡単に止めるのにな」 まだまだ修行不足とこぼす。ブッキーのおとうさんは大きいものね、と内心思いつつも口にはしなかった。 このまま一緒に帰ることにした。 びー、びー、びー。 「小鳥の囀り、可愛いわね」 「……待って! せつなちゃん。様子がおかしい。この鳴き方は警戒よ」 「マンションの工事現場の方角よ、行って見ましょう」 二人は駆け寄った。 黄色いヘルメットと灰色の作業着を着た男性が、一本の木を切り倒そうとしていた。その周りを緑色の小鳥が飛び回る。 「まって! お願いします。待って下さい」 「せつなちゃん、あそこ!」 二メートルに満たない小さな木。その中央辺りの葉の茂みの中に、釣鐘状の茶色い巣があった。 そっと覗き込むと、飛んでいるのと同じ緑色をした小鳥が卵らしきものを温めていた。 「これは……メジロね。こんな小さいアセビの木に巣を作るなんて」 メジロというのが鳥の名前らしい。近づいたため巣の鳥も飛び立った。離れて様子を伺うと、また巣に戻り温めようとする。 もう一羽の鳥はずっと上空を旋回していた。 「お嬢ちゃんたち、そろそろどいてくれないかな。今日中にここは平地にして舗装してしまいたいんだ」 「そんな……。それじゃあ巣が――卵が!」 「お仕事なのはわかります。でも、巣の保護を優先してもらえないでしょうか」 慌てるせつなと対照的にブッキーが毅然と反論する。見たこともないほど強い意志を感じた。 「鳥獣保護法で鳥や卵の損傷は禁止されているはずです。わたしは山吹動物病院の娘です」 「損傷はしない。木を切って巣ごと邪魔にならない場所に移す。それならいいだろう」 「それじゃダメです! メジロは気の小さい生き物です。大きく環境を変えられたら、巣と卵を捨ててしまう可能性があります」 「そこまで責任は持てない。おじさんたちは愛護団体じゃないんだ」 ブッキーの目が怒りに燃える。強く反論しようとしたのをせつなが止めた。 「ブッキー、喧嘩腰はダメよ」 「でも……せつなちゃん」 「ここは……ラビリンスの攻撃を受けて空き地になった場所なの……」 ブッキーはせつなの手が震えているのを感じた。気持ちを察して口をつぐむ。 せつなは深々と作業員のおじさんに頭を下げた。 「私には、難しいことはわかりません。でも……ここは悲しいことがあった場所です。もう、誰にも、何にも傷ついてほしくありません。なんとか助けてあげてください」 せつなは深く頭を下げたまま、微塵も動こうとしなかった。かなり苦しい体勢であるにもかかわらず。 ブッキーも見かねて一緒に頭を下げる。無理な姿勢に震える足を懸命に押さえ込む。 「まいったな……。ちょっと監督に相談してくるから待ってな」 「「ありがとうございます!!」」 二人は手を取り合って喜んだ。 それから半時間ほど、監督に掛け合ったり事務所に連絡取ったりして、なんとか舗装工事を後回しにしてもらえることになった。 「なあに、いざとなったらおじさんたちが徹夜してでも工期は間に合わせるさ」 せつなとブッキーの情熱に打たれたのだろう。先ほどの人も最後には味方になって説得を手伝ってくれた。 「良かったね、また明日も様子見にくるからね。元気な雛が生まれるといいね」 「私、精一杯応援するわ! 小鳥さんも、おじさまたちも」 落ち着いたのか、上空を飛んでいた鳥も巣に戻ってきた。虫らしきものをもう一羽の鳥に与えていた。 ぴー、ぴー、ぴー。 今度は優しい声で鳴いた。立ち去るせつなとブッキーに、お礼を言ってるかのように。 「こんにちは~」 危険だからと言う理由で、昼の休憩時間のみ巣の見学を許されていた。すっかり親しくなった現場の方々に挨拶してまわる。せつなとラブが手製のお菓子と紅茶を差し入れしてまわる。 「見て! 美希ちゃん。卵が孵ってる」 「うわぁ、可愛いのね。口がおっきくて。三羽もいるのね」 「どれどれ、ほんとだ。メジロの赤ちゃんってピンク色なんだね」 「ラブ……。ピンクなのは体毛が生えてなくて地肌だからでしょ」 親鳥が青虫らしきものを雛に与えていた。雑食性で、穀物、果実、木の実、昆虫と何でも食べるんだそうだ。 いつ翼を休めているのかわからないくらい、親鳥たちはひっきりなしにエサを運んでくる。 それから、四人は暇ができるたびに見に行った。特に、せつなとブッキーは毎日のように。 雛の成長はめざましかった。数日で目が開き、また数日で体毛が生え揃っていく。 日に日に大きくなって成長していく。それを見守るのが嬉しくて、楽しくて、わくわくして。 せつなの嬉しそうな顔で幸せな気持ちが伝わったのか、はたまた毎日の差し入れの効果なのか、現場の作業員のおじさんたちも一緒になって見守るようになった。 祈るように毎日見つめ続けた。 巣を見つけてから二週間。孵化してから十日間ほどたったある日のことだった。 「なんだか様子がおかしいわ」 「せつなちゃん、この声は警戒よ。――ううん、違う! これは」 メジロの親が木の周りを旋回するように飛んでいる。雄鳥だけならともかく、二羽とも。 「もしもし、ラブ、巣に何かあったみたいなの。美希と一緒にすぐに来て」 びー、びー、びー。 「お待たせっ、せつな!」 「何があったの? ブッキー」 親鳥たちは、相変わらず鳴き声を上げながら旋回を続けている。 そして、巣に変化が起こった! バサッ――バサッ――バサササッ―― 一羽の雛鳥が飛び立った。 それにつられるように、もう一羽も。 二羽の雛鳥はゆっくりと飛びながら、隣のもみじの木の頂上近くで止まる。 「「「「わぁぁぁぁーーーー」」」」 せつなが、ブッキーが、ラブが、美希が歓声を上げる。 残りは一羽。 懸命に羽を広げる。 大きく大きく羽ばたく。 しかし、飛び立てない。 親鳥が二羽とも巣の隣まで戻って来た。 一羽は心配そうに鳴き声を上げる。 もう一羽は手本でも見せるかのように羽を広げて羽ばたく。 四人は祈る。 ――がんばって!――がんばって!――がんばって!―― ついに雛鳥が浮き上がる。 フラフラとよろけながら飛び立つ。 もみじの木の途中辺りまで来て、バランスを崩し落下した。 「あっ!」 せつなが見かねて飛び出そうとする。その手をブッキーがしっかりと掴んで止めた。 「よく見て、せつなちゃん。あの子、まだあきらめてない」 雛鳥は起き上がり、再び羽を広げた。 親鳥はその上を旋回し、木の上の雛鳥たちも鳴き声を上げた。 「がんばって、頑張るのよ! おとうさんも、おかあさんも、必死にあなたを育ててきたんだから!」 ついにせつなが叫び声を上げる。 『そうだ~がんばれよー。俺達もついてるぞー』 作業員のおじさんたちもすぐ後ろまで来ていた。メジロたちもこの期に及んでは逃げなかった。 クローバーとおじさんたちと、メジロの親子の叫び声が重なる。 バサッ――バサッ――バサササッ―― 今度こそ、力強く羽ばたいた。まっすぐ、木の上で待つ雛鳥たちの元に飛んでいく。 「「「「わぁぁぁぁーーーー」」」」 『おぉぉぉぉーーーーーーーーーー』 ぴー、ぴー、ぴー。 親鳥がみんなの周りを低空で飛ぶ。だけど、その動きには威嚇はなくて。 まるで、お別れを言っているように見えた。 そして、五羽のメジロの親子はいっせいに大空に向かって飛んでいった。 ――高く――高く――真っ直ぐに―― せつなは願う。 どうか、あの子達の行く先が幸せに満ちていますようにと。 そして、自分の目から流れている涙に気がつく。それは、感動と感謝の涙。 私も――もらったんだ。あの子たちに――その成長に――幸せを。 ラブも、美希も、ブッキーも、みんな涙ぐんでいる。おじさまたちも。 親の想い。子の想い。家族がいる幸せだと、ひとくくりに考えていた。 命を生み、守り、育む幸せ。私の知らなかった、これも幸せのカタチ。 メジロの親子が残してくれた――教えてくれた。 大切な思い出と――命の素晴らしさ。 せつなは空を見上げてつぶやいた。 ――ありがとう。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/922.html
【1月1日】 『今年の抱負?』 四人 『みんな、あけましておめでとう!』 ラブ 「今年も、幸せゲットだよ!」 美希 「もしかして、それが今年の抱負?」 ラブ 「そうだよ」 美希 「それじゃ、具体的な行動目標が全然ないじゃない」 ラブ 「じゃ、美希たんは何なの?」 美希 「アタシはね、今年も完璧でありたいかな」 ラブ 「美希たんも一緒じゃん……。せつなとブッキーは?」 せつな「みんなが幸せでいられるように、精一杯がんばるわ」 祈里 「みんなの抱負が実現するって、わたし、信じてる」 ラ美せ(ブッキーだけは絶対抱負じゃない……) 【1月2日】 『お正月』 せつな「お正月って、おせち食べたり初詣に行ったり、なんだかとっても楽しいわ」 ラブ 「そうだね! おせちにお雑煮。お鍋に焼餅。ケーキにドーナツ。こたつでみかん!」 祈里 「ラブちゃん食べ物ばっかり」 美希 「どうしてピルンに選ばれたのか、わかる気がするわね」 せつな「美希とブッキーはどう過ごすの?」 美希 「そうね、正月と言えば振袖を着るのが楽しみかな」 祈里 「一月一日は神の母聖マリアの祝日。ミサがあるの」 せつな「私って個性がないのかしら……」 【1月3日】 『フレシュ?』 キュアピーチ「ピンクのハートは愛ある印! もぎたてフレッシュ! キュアピーチ!!」 せつな「なんで食べ物の名前のプリキュアなのかしら?」 美希 「ラブが最初に変身したからじゃ?」 ラブ 「また……何でもあたしのせいにする……」 祈里 「美味しく食べられちゃいそうな名前よね」 ラ美せ『笑えないから……』 【1月4日】 『着物』 美希 「今日は着物を着て初詣に行くの。とっても楽しみ」 せつな「私も晴れ着を作ってもらったの。わくわくするわ」 ラブ 「せつなって黒髪で色白だから、着物が超似合うよね」 祈里 「わたしはちょっと小柄だから、あんまり似合わないかも」 ラ美せ(七五三みたいで可愛いなんて言えない……) 【1月5日】 『年賀状』 祈里 「毎年、いろいろな人から年賀状が届くのが楽しいわ」 せつな「私もいっぱいきてびっくりしたわ。でも、ラブはもっと凄かったの」 ラブ 「あはは、年賀状だけでお小遣いなくなりそう」 美希 「アタシも数は凄いんだけど、業界関係者が多いのよね。ちょっと寂しいかな」 【1月6日】 『正月太り』 ラブ 「お正月のごちそう、毎日食べ過ぎちゃったよ」 せつな「私も……。ついラブにつられて食べちゃうのよね」 ラブ 「また、あたしのせいにする……」 美希 「アタシは完璧! じゃないかも……」 祈里 「わたしも、ちょっと太っちゃったかも」 ミユキ「それは大変ね! みんな、ダンスするわよ!」 四人 『ハイッ!』(でも、どこから出て来たんだろう……) 【1月7日】 『春の七草』 ミユキ「今日は七草粥の日。お粥を食べる日なのよ」 ラブ 「せりなずなごぎょうはこ、あぐっ、舌噛んじゃったよ」 美希 「早口言葉じゃないんだから……」 祈里 「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろの七種類ね」 せつな「せりくらいしか知らないわ。珍しいものを食べる日なのね」 カオルちゃん「本日限定、七草入りドーナツもよろしくね! ぐはっ」 全員 『さすがにそれは美味しくなさそう……』 【1月8日】 『やっぱり』 タルト「凧あげってムチャクチャおもろいなぁ~。寒いの忘れるわ」 シフォン「キュア、キュア!」 タルト「ん? もっと高く上がるかって? よっしゃ、見といてやシフォン!」 ラブ 「タルト! あんまり無理すると」 タルト「あわわっ、わいまで飛んでしもた! 誰か助けてや~~」 四人 『やると思った……』 【1月9日】 『カオルちゃんです!』 カオルちゃん「おせちに飽きたらドーナツもね! ぐはっ!」 せつな「ほんとうに美味しい」 ラブ 「カオルちゃんのドーナツは飽きないよね」 カオルちゃん「整いました!」 美祈 「「今日は○コロンなんだ……」」 カオルちゃん「ドーナツの人気とかけまして、おじさんのジョークと解きます」 四人 『その心は?』 カオルちゃん「落ちない。な~んてね、ぐはっ」 四人 『本当に笑えない……』 【1月10日】 『みんなの人気』 せつな「ラブ、今日はプリキュアの日ね!」 ラブ「うん! みんなも楽しんでね!」 近所の子「みんな~プリキュアごっこしよう!」 近所の子「わたしはぶろっさむ! お姉ちゃんはむーんらいとね!」 近所の子「遅れてるぅ~。これからはスイートプリキュアよ!」 祈里「子供たちの人気って……」 美希「残酷よね……」 避2-532へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1170.html
「ねえねえ。トランプ終わったら、今日は変わったものでゲームしようよ!」 パジャマパーティーで集まった四人が、ラブの部屋で賑やかにババ抜きをしていたとき。ラブが赤い箱を右手に持って軽く振りながら、満面の笑みで言った。 「ちょっとラブ~。アタシたちでポッキーゲームやろうって言うんじゃ・・・」 「ピンポ~ン!学校で、由美に教えてもらったんだ。美希たんは知ってたんだね。面白そうだから、やってみようよ!」 ひと目で展開を察して軽く止めようとした美希は、ラブの無邪気すぎる答えを聞いて絶句した。 周りを見れば、祈里は何だか赤い顔をして下を向いているし、せつなに至っては、不思議そうな顔でラブとポッキーの箱を見比べている。 (全く・・・。それなら言い出しっぺにやってもらおうじゃないの。) 密かにそう思った美希だったが、次に聞こえてきたラブの声に、再び息を呑んだ。 「じゃあさ、美希たん。やり方知ってるんなら、最初にあたしたちでお手本見せてあげようよ!」 「な、ななな何言ってんのよ!!」 思わずそう叫んでしまってから、ハッとする。おそるおそる辺りを伺うと、ぽかんとしたラブとせつなと、やっぱり赤い顔をして下を向いている祈里・・・。 「ほ、ほら、ラブとアタシのゲームが同じかどうかわからないし、ルールが違ったりするかもしれないでしょ?だから、まずはラブがやってるところを見せて貰うわ。」 「そぉお?じゃあ、せつな、やってみよっか。」 「わかったわ、ラブ。」 せつなが何の疑いも無く立ち上がる。そしてラブの説明を聞いて、素直にポッキーの端をくわえた。 「いい?先に口を離した方が負けだからね。」 そう言って、ラブも反対側の端を口に含む。すっかり諦めた美希が、よういドン!と号令をかけた。 ラブとせつなが、両端からポッキーを食べ進む。せつなは黙々とポッキーをかじりながら、心の中で首をかしげた。 (これ・・・最後まで食べ進んだら、ラブとぶつかっちゃうと思うんだけど。そしたら、勝ち負けはどうなるのかしら。) 不思議に思いながら、目の前にあるラブの顔を見て、思わずドキリとする。 当然だけど、顔の全体が視界に収まりきれないほどに、ラブの顔が間近にあったから。 そして、子供みたいにもぐもぐと口を動かしてポッキーをかじっているラブの顔が、あまりにも・・・あまりにも可愛かったから。 (あ、いけない!) ラブの顔に見とれて、思わずせつなの口からポッキーが離れる。が、それに気付いた瞬間、せつなは右手の人差し指で素早くポッキーを押さえて再び口に咥えると、何食わぬ顔で指を離した。 その間、わずか0.2秒。しかし、この上なく至近距離にいるラブは、そんなわずかな動きも見逃さない。 「やったー!あたしの勝ち!」 ラブが大喜びでそう叫ぶと、美希が冷静な声で言った。 「ハイ、ラブの負けね。」 「え~、なんで!?」 「だって、ラブの方が先に口を離したじゃない。ほら、見なさいよ。」 言われて目をやると、せつなは短くなったポッキーを口にくわえたまま、上気した顔で、きょとんとこちらを眺めている。 「ええ~!せつな、口離さなかった?おっかしいなぁ。あたしの見間違えかなぁ。」 頻りと首を傾げるラブの目の前で、せつなはまだ赤い頬のまま、もそもそとポッキーの残りを平らげた。 その夜。 恒例の枕投げをして、みんなで晩ご飯を作って食べて片付けて、お風呂・・・は緊急事態により残念なことになったけど、とにかくみんなでもう一度、ラブの部屋に集まったとき。 クローゼットの中から、ラブを呼ぶ声。現れたのは、ラブが小さい頃大切にしていた、ぬいぐるみのウサぴょんだった。 「私はずっとこのクローゼットの中で、ラブたちの話を聞いてたの。だから、みんなのことは何でも知ってる。勿論、さっきポッキーゲームでせつながズルしたってことも。」 ウサぴょん・・・恐ろしいウサギ! ~おわり~
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/437.html
誰にも邪魔されない、二人だけの時を。 人差し指で塞いだせつなの唇。ラブはそっと撫で、柔らかさを確認する。 せつなは唇に触れたラブの指を愛おしく、ゆっくりと舌先で転がしながら口に含む。 見詰め合う二人に、言葉など必要なかった。 そっと指を引き抜き、ラブはそれを自分の口へと運ぶ。 居た堪れない感情が襲ってくる。目の前には悪戯に微笑む彼女がいるのだから。 「……しよ?」 ほんの数分の出来事なのに、せつなにはそれが永遠の至福のように思えた。 やっと一緒になれる。本当の幸せを掴み取れるのだと。 愛してる――――ラブ。 小さく頷くとせつなはゆっくりと瞳を閉じた。 重ねる唇。互いの舌と舌とが絡み合う。唇の端からは溢れる唾液。 まるで赤子のような二人だけれど。 恥ずかしさより、今は愛し愛される喜びで満ち溢れていた。 「ん...う...んん.....」 初めて味わう感情。 熱くなるカラダ。 溶けてしまいそうな程の愛。 「もっと……。もっと…、愛して欲しい…。」 「立てる?」 「……。」 ラブは私を優しく抱きしめてくれた。こんな時でも優しくしてくれる。 そう思うだけで、私の中の何かが――――熱くなるのがわかった。 せつなのカラダは、とても女性らしくて。 すごく…魅力的で。 もっと見てみたいなって……思った。 あたしって…、こんなにHだったかな? そうさせるせつなもHなんだろうけど。 今の二人には理性のカケラなんてない。 だって、ここはお風呂場なんだもん。 普通じゃ考えられないんだろうなって。 「キレイだよせつな。」 形の良い胸に初めて触れる。柔らかな感触。その中にある頂きは、既に突起していて。 手で触れるだけでは満足出来ずに――― 「ぁ...ん」 「ダメだよせつな、声出しちゃ。」 「で、で…も……んっ」 かわいいせつな。 大好きなせつな。 ―――私だけのせつな。 漏れる声すら愛おしく。唇でそれを塞いでも尚零れる吐息。 左手は胸を。 右手は秘部を。 あたしだけが触れる事を許された。 ―――恋人だから――― 初めて自分以外の人に触れられる感触。 それが誰よりも愛しているラブ、あなたなら。 私はシャワーのレバーを引くと、目一杯の水流に調整した。 「…これなら、聞こえない…でしょ?」 立つ事さえままならぬ状態の私には、これぐらいしか思い付かなくて。 「…せつな。しっかりつかまってて。」 「……わかった。」 秘部にすんなり入っていく指には絡みつく愛液。 それは、シャワーの水とはまた違う濡れ方で。 いやらしくちゅくちゅくと音を立てるが、その割れ目が奏でる音を聞けるのは 目の前にいるラブだけ。 さらに、割れ目の先端にある突起を集中して刺激する。指だけでなく舌先でも。 繰り返される動きにもはや意識も薄れかけ。 「っん―――!ぁ…あ、ぁぁぁぁぁぁ――――!!!」 「イっていいよ?イイんだよっせつな!」 「ぅん―――!はぅ…、も、もぅ―!」 「好き!愛してるせつな!!」 「あぁぁ!ふぁっ――、い、いっちゃ……――――――!!!」 崩れ落ちるせつな。 優しく包み込むラブ。 キュッ、とシャワーのレバーを元に戻すと再び見詰め合う二人。 「はぁ…、はぁ……。……ん」 「…Hだね、あたしたち…」 鏡に映る二人はびしょ濡れで。まるで夢の跡のような光景に思わず苦笑い。 「また…しようね。」 「……ラブ。」 「何?せつな。」 「今度は私が………、してあげたいの…。」 「でも、せつなのぼせちゃうよ。」 「嫌っ!私だけ…。一人だけなんて……」 「……せつな。」 こんなにも好きな人と、愛してる人と一緒になれるのが嬉しい事だなんて。 優しくて温かくていつも素直なラブ。 なのに――― 「私、間違ってたのかも。」 ~続く~ 6-904で完結です。 6-732ラブ視点で描くエピソード1 6-819せつな視点で描くエピソード2
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/352.html
第21話 涙 「……なに………やってんの…?」 祈里はベッドに仰向けたまま、ラブはその下に尻餅を付いたまま嵐の後の凪のような 気だるさに身を任せていた時だった。 突然聞こえた呆然とした声に祈里とラブは飛び上がる。 ドアを開けて立ち尽くしているもう一人の幼馴染み。美希は信じられない物を見た衝撃に端正な顔を引きつらせていた。 思わず跳ね起きた祈里の乱れた胸元に美希の目が見開かれる。 ラブは中途半端に腰を浮かせ、その視線は慌ただしく宙を泳ぐ。 とっさに説得力のある言い訳が出る筈もなく二人は酸欠の金魚よろしく青ざめて口をパクパクさせるだけだった。 「何、やってんのよ…!」 美希のまなじりがつり上がり、握りしめた拳が震える。ゆらりと揺らめく焔が細い体を包んでいる。 「やっ…!違う、違うんだよ!」 「美希ちゃん、わたしが悪いのっ!ラブちゃんは何も…っ!」 「未遂…って言うか!まだ最後まではって言うか…その…」 「ちょっ、ラブちゃん!何言ってるの?!」 「いや、だからね!結局何もおかしな事にはね…」 「……だからっ!何がよっ!!」 震える美希の声にラブと祈里は思わず目を閉じ首を竦める。 叱られる。怒られる。ひょっとしたらひっぱたかれるか拳骨を落とされるか。 じ…っと身を固くし、来るべき衝撃に備えていた二人。 しかし暫くしても覚悟していた痛みはやって来ない。 「………もう…やだ………」 耳を通り抜けた弱々しい声。 訝しさを感じたラブと祈里恐る恐る目を開ける。 「…もお…やだ…。嫌よ。何なの……?何なのよ…これは…。ヤダ…ヤダよ。もうイヤ!……っ!」 ぺたんと座り込み、肩を落とす美希の姿。 さっきまでつり上がっていた目尻が下がり、瞼に膨れた雫が大粒の涙となって零れ落ちる。 両手の甲を瞼を当て、シクシクと泣き始める。 激昂するでも、怒りを抑えるでも無く、体の芯を砕かれてしまったように。 ひっくひっくと胸を上下させ、苛められた幼子のようなか細い声で泣きじゃくる美希。 長い付き合いの中、美希の泣き顔を見るのは初めてではない。 しかし、これは…… ラブと祈里は言葉が出ない。 心を折ってへたり込んでしまった美希なんて見た事が無かったから。 そして美希にそんな姿を晒させてしまったのは自分達の考え無しな行動なのだ。 怒鳴られて叩き倒された方が遥かにマシだった。 「…美希……」 「…美希ちゃん………」 声も掛けられず、触れる事も出来ずにおろおろと狼狽えるしかなかった二人はやっとの思いで名前を呼ぶ。 ピクリと美希の肩の震えが止まり、緩んでいた唇がきゅっと引き締まった。 涙を拭い、長く息をつく美希をただ身動ぎもせずに待っているしかなかった。 「………帰る。」 抑揚の無い口調でぼそっと呟くと美希はそのまま部屋を出て行こうとした。 「あっ…!待って、待ってよ美希たんっ、話聞いて!それに…せつなにはこの事は…」 言わないで欲しい。 そう懇願しながら腕を掴んで来たラブを美希は汚ない物に触れたかのように邪険に振り払った。 その瞬間の美希の瞳に宿った色。 幼馴染みの視線に滲む隠す気すらない冷えた侮蔑。 ラブはその視線に心臓を射抜かれ、よろめきながら後退る。 「せつなに言うな、ですって?馬鹿にしないでくれる?」 それに何を話すって言うのよ。 吐き捨てるように美希は言葉を投げつける。 「それはこっちの台詞よ。あんた達こそ分かってるの?言える訳ないじゃない!」 「…それは、そうだよ。言えないよ、こんなの。」 「ごめんなさい、美希ちゃん。わたし、これ以上せつなちゃんを傷付けたりは…」 項垂れる二人を見る美希の瞳はますます温度を下げて行った。 形良い唇を皮肉な角度に捻り、視線と同じくらい冷たい声を放つ。 「どうだかね。分かりゃしないわよ。あんた達にまともな判断力なんて残ってんの?」 ついさっきまでの痛々しい様子をかなぐり捨てた美希は女王の傲慢さを覗かせながら 棘の絡まる言葉を紡ぐ。 「いいじゃない。全部ぶちまけなさいよ。せつななら赦してくれるでしょ?」 「美希たん…っ!」 「どうせ黙ってなんかいられないわよ。罪悪感に耐えられずに。 どうにもならない事を我慢する気なんて最初からないんでしょ?」 ふん。と、顎を上げ祈里の姿をねめつける。 慌ててはだけた襟元を掻き合わせる祈里に軽く舌打ちさえしてみせた。 「あんた達はもう分かってんのよ。分かって甘えてる。せつなには何をしても良いと思ってんのよ。」 「そんな、美希ちゃん…。」 「違う!そんな事って…っ!」 「違わないわよ。」 せつなはどんなに痛め付けられても逃げなかった。 どんなに手酷く裏切っても赦してくれた。 だからせつなには何をしても大丈夫。せつなは四人でいる事を望んでる。 だから… 「せつなは赦してくれるわよ。自分が傷付くのには呆れるくらい無頓着なんだもの。」 でもアタシは許さないから。 「これ以上せつなに荷物を背負わせるような真似、しないわよね。」 あんた達が何考えてこんな真似してるかなんて聞きたくもないわ。 ただ、秘密にするならそれは墓場まで持って行きなさい。 お願いだからもうこれ以上失望させないで。 そんな呟きをため息と共に美希は置いて言った。 ドアが閉まり、階段を降りて行く音がする。 ラブと祈里の胸には美希の瞳と声が深く食い込み、爪を立てている。 それは血管を通して全身に巡り、体の内側から自分達の愚かさを責め立てているのを感じた。 「………どうしよう……わたし、どうしたら……」 祈里は唇まで色を無くし全身を戦慄かせていた。ラブは頭を掻き毟り、血の滲むほど爪を立てる。 「どうしようもないね……あたし達。」 「……うん…。」 「馬鹿過ぎる。あり得ないくらい、馬鹿……。」 「…ラブちゃんの所為じゃない…。」 「あああ、もうっ…!」 ラブは床に突っ伏し、額を擦り付ける。どうしてこんなに頭が悪いのか。 どうしようもない。馬鹿。あり得ない。そんな軽い言葉しか出て来ない。 違うのだ。美希に見せてしまった光景はそんな紙のように薄っぺらい言葉で表すべきじゃない。 美希のか細い泣き声が耳にこびり付いている。瞼の裏に涙を溜めた瞳がちらつく。 自分達の行為が食い荒らした美希の心。 ラブと祈里の居場所は美希の居場所でもある。 自分達の感情だけでめちゃめちゃに踏み荒らしていい訳があるはずない。 美希がどれほどその居場所を愛し、守ろうとしていたか。 ずっと見て来たのに。 美希が必死に繋ぎ止めていてくれてたのに。 四人がバラバラにならないように。 祈里が輪の中に居続けられるように。 ラブとせつなが安心して手を繋いでいられるように。 それなのに。 目の前に突き付けられるまで自覚していなかった。 美希を軽んじていた事に。 第22話 胸から零れた罪の破片へ続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/529.html
雪のグリル・クローバーヒル/こゆき しんしんと、雪が降り続いている。 黒一色に沈む夜の街が、ほのかに輝く銀のヴェールを纏う。 この窓の外は、ぬくもりの欠片もない凍てつく冷たい氷の世界。かつての―――この私のように。 あの時の私なら、きっとこの光景を美しいと感じることはなかっただろう。 命の溢れた春よりも、心の安らぎを覚えることならあったかもしれないが……。 窓一枚隔てただけの、この部屋のなんと暖かいことだろう。耳には優しいピアノの旋律。芳しいご馳走の香りと、楽しげな談笑の声。 こちら側が幸せで―――あちら側が不幸。 この窓が幸せを分けるラインなら、それを越えるための条件とは一体なんだろう? それさえわかれば、みんなをこちら側に入れてあげられるかもしれないのに……。 「せつな、どうしたの?何か考えごと?」 「ラブ……。メニューは決まったの?」 「あっ、ううん。なんか迷っちゃって」 ニハハと笑って、ラブはまた、心配そうに私の顔を覗き込む。私はラブの視線から逃げるように、再び窓の方に顔を向ける。 ガラスに映ったその表情は、確かに元気がなさそうに見えた。 (このガラスの内側に入れたのは、きっとラブの愛情のおかげ。) 「ねえ、ラブ。LOVEって、愛するって意味よね。それは、どんなものなのかしら?」 「どうしたの?せつな。熱でもある?」 「茶化さないで!」 思わず厳しい口調になった私に驚いて、お父さんとお母さんがメニューを置いてこちらを見る。 「……ここは、私がラブの家族になれた場所、私が初めて幸せを知った場所よ。そして、今夜は互いの幸せを願うクリスマスイブでしょ?だから……」 お父さんとお母さんが、静かに顔を見合わせる。そして二人は、入り口のサンプルを見てくると言って席を立った。きっと、少しの間ラブと私の二人だけにしてくれたのだろう。 「ごめんなさい、せっかく外食に連れてきてもらったのに……」 「ううん。あたしもよくわからないんだけどさ~。愛情ってね、相手のことを大切に思う気持ちなんじゃないかな?」 「ラブは、みんな大切なんでしょ?私も美希もブッキーも、お父さんやお母さんや、ううん、会ったことのない人だって!」 「そうだよ」 「だったら、私が私じゃなくたって、ラブはその子を家族に迎えていたの?一緒にダンスをしていたの?」 「それはわからないけど……せつなはやっぱりせつなで、誰かの代わりになんてならないよ。きっと代わりの効かないものが、本当の愛なんじゃないかな?」 「ラビリンスに居た頃の私は、いくらでも代わりが効く存在だったわ。この窓の外にたくさんあって、埋もれていって……やがて忘れ去られ、溶けて消えてしまう雪のように……」 そんな私に、愛される資格なんてないのかもしれない。その言葉が、次第に小さくなっていって、消えてしまいそうになったとき……ラブが立ち上がって、私の肩に手を触れた。 「せつな、こっちに来てみて!」 「えっ?なに?この季節にテラスは使えないはずよ?」 「さっき、カギが開いてるのを確認したの。いいからいいから」 ラブは端の方にあるテーブルに近づいていく。それは椅子ごとブルーのシートで覆ってあって、それをさらに覆うように雪が積もっていた。 「これは、あの時のテーブル……」 「うん。でも見せたいのはテーブルじゃなくて、これっ!」 「……雪よね?それがどうかしたの?」 ラブは得意げに雪をすくい上げて私の方へ差し出す。 「近くでよぉく見て。あたしでもなんとか見えるから、せつななら形がハッキリとわかるはずだよ」 「これは……どうして?ひとつひとつ、ぜんぶ違う形をしているわ!」 驚きの声を上げる私に、ラブは満足そうに頷いて、夜空を見上げる。 「みんな同じに見える雪でもね、本当はひとつひとつ、ぜーんぶ形が違うんだよ。メビウスはきっと、国民のことをまとめて雪だと思ってたんじゃないかな?そんなの愛じゃないよ」 「ラブやお母さんやお父さんは、私という、代わりのない形を見つめてくれたのね。だから――」 「相手をよく見て、よく知って、その形を大切だって思えたら、それは愛なんだと思うの。あたしはさ、会ったことのない人だって、みんな自分の形を持ってるって思えるから」 「みんなを、愛しているのね」 「うん!」 ラブは私に背を向けて、また雪をいじりだした。 「私にもできるかしら?ラブのように、みんなを見つめて愛することが」 「できるよ!だって、せつなは誰よりも目がいいんだもん!」 「もうっ、そこに視力は関係ないでしょ!しかも、後ろを向いたままで言わないで!」 「ごめんごめん」 ラブは、今度は手にしたものを後ろに隠してこちらを向いた。 「ラブったら、さっきから何を作ってるの?」 「これだよ!」 そう言って、ラブは白い塊を私に投げつけた。 「フン!そんなことだろうと思ったわ。私に当たるとでも?」 「せつな、後ろっ!お母さん!」 「えっ?」 「スキありっ!」 一瞬後ろを向いた私の頬に、ふんわり柔らかい雪の塊がぶつかって弾けた。 パウダースノーの雪だから痛くはなかったけど―――その一撃で、私の身体に流れる戦士の血が目覚める。 「やったわねーっ!もう許さないから!」 「望むところだよ、せつな!」 いつの間にか、重たかった私の心は軽くなり、バカみたいに笑いながら、ラブと雪の塊をぶつけあっていた。 もう少しだけ、待っていてもらおう。 ラブと一緒なら、きっと見えるようになるから。 ラビリンスの人々それぞれの形を見つめて、愛して、笑顔に変えられると思うから。 だから―――もうしばらくだけ、このままで。 fin
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/132.html
「仲直り記念日」/◆BVjx9JFTno 湯気で曇った鏡を見て、 冬が近づいてることを実感する。 バスタブに、体を沈める。 爪先と、指の先から、 じんわりと暖まっていく。 鼻まで、お湯につかる。 ゆうべの、あたしの言葉が 頭の中で、繰り返される。 「お母さんがせつなのこと、どれだけ 思ってるかも知らないで!」 あたし、何てこと 言っちゃったんだろう。 知らないわけ、無いじゃない。 パジャマに着替え、階段を上る。 せつなの部屋のドアが、 少し開いている。 すき間から、中を覗いてみる。 ベッドに、パジャマ姿の せつなが腰かけている。 手首を、何度も、 何度も、撫でている。 せつなの横顔は、髪で隠れて ほとんど見えない。 「...さん」 かすかに聞こえる声。 「おかあさん...」 胸が、ぎゅっと 締めつけられた。 せつなの、お母さんへの思い。 わかってないのは、 あたしの方。 あたしは、せつなの気持ちも考えず、 感情的になってしまった。 涙が、こみ上げる。 「ラブ...?」 入口でしゃくりあげている あたしに、せつなが気づいた。 「どしたの?」 駈け寄ってくる。 「せつな...ごめん...」 「え,,,?」 「あたし...せつなに、ひどいこと...」 ほとんど言葉になっていない。 「ううん、いいの...」 そっと抱きしめられた。 「私、ラブに言われたとき、気づいたの」 「えっ...」 「お母さん、って、 呼んでもいいんだって...」 せつなの腕に、 力が込められる。 「やっと、言えた...」 せつなの思いが、心に届く。 こぼれる涙が、後悔の冷たさから 祝福の暖かさに変わる。 あたしも、せつなを ぎゅっと抱きしめる。 しばらく、抱き合ったまま ゆりかごのように、ゆっくりと揺れた。 部屋から、枕を持ってきた。 右手首には、ピンクのブレスレット。 「一緒に寝てもいい?」 せつなが、微笑んでうなずく。 電気を消して、 布団にもぐり込む。 せつなが、布団から左手を出して ブレスレットを見つめる。 「今日のこと、ずっと忘れない...」 「あたしも、忘れないよ...」 右手を出し、ブレスレットを重ねる。 せつなの指が、 あたしの指に絡まる。 布団を通して伝わる、 ふたりの体温。 「あったかい...」 しばらくして、せつなの 寝息が聞こえてきた。 北風が舞い、窓ガラスを かすかに揺らす。 あたしは、繋いだ手が冷えないように そっと布団の中に入れた。 ラせ1-14は、あゆみ視点の40話スピンオフ第三弾
https://w.atwiki.jp/llnj_ss/pages/1741.html
元スレURL SSトイレットペーパー選手権 概要 QU4RTZのトイペ使用量調査 (実況:同好会のクソガキコンビ) タグ ^高咲侑 ^優木せつ菜 ^QU4RTZ ^短編 ^コメディ 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/700.html
ラビリンス、せつなの自室。 せつなは写真を握り締めて、ベットで泣いていた。 大切にしていた思い出まで汚してしまった。大切な人を傷つけてしまった。 後悔が頭の中を渦巻く。 「めそめそするくらいなら、言わなきゃいいのにね」 開きっ放しだった扉から美希が入ってくる。慌てて繕おうとするせつな。 「ノックもしないのは謝らないわよ。アタシは喧嘩しにきたんだから」 「もう……来ないでって言ったはずよ、美希」 抗議するせつなを鋭い眼光で退かせる。一歩一歩距離を詰めて歩み寄る。せつなは威圧される ように下がった。 「ラビリンスの人たちを笑顔と幸せでいっぱいにする。それが夢だと聞いたから行かせたのよ。 今のせつなは何? 夢を、好きなことを追いかけている者の目じゃないわ」 「夢は……楽しいことばかりじゃないのよ。上手く行ってる美希にはわからないわっ」 精一杯頑張ってきた。今までも、今だって。だけど……その先の言葉を飲み込んだ。 「だからと言って会いに来てくれた親友に八つ当たり? いい身分ね」 ラブの驚愕の表情が思い出された。また胸を抉られる。観念してベッドに座り込んだ。 「もう……会わないつもりだったというのは本当よ。会えばきっと、弱い私が出てきてしまう。 ラブに甘えてしまうかもしれない。泣きついてしまうかもしれない。 帰りたくなってしまうかもしれない」 後悔するかのように、ぽつぽつと、力なく話すせつな。その姿がとても寂しそうで、小さく見 えた。 美希はハッとした。また、ラブのことばかり心配していて、せつなの身になってやれなかった のかもしれない。 理想と現実の壁。休む暇も無いまま、遅々として進まない復興と意識改革。 何も無い部屋。愛してくれる人の居ない生活。まだ14歳、僅か半年しか人の温かさに触れて こなかった少女の悲しい人生。 「寂しいならそう言えばいいじゃない。甘えればいいじゃない、泣きつけばいいじゃない。 どうしてそんなに自分を追い詰める必要があるの?」 美希にだけは言われたくないわ。そう言って少しだけ笑って続ける。 「私ね、四ツ葉町を発つ前に一つだけ決めていたことがあるの。それは自分を甘やかさない事。 何か理由があれば戻ることもあるかもしれない。だけど、寂しいとか辛いとか、そんな自分勝 手な理由でだけは決して戻らないようにしようって。 もし、帰ることがあるなら、夢を果たしてから胸を張って帰ろうって」 やっぱり、そう。 せつなはいつもそうだ。自分の夢や幸せは、周りをそれで満たしてから得ようとする。 いつだって自分のことは後回し。メビウスのため、アタシたちのため、今はラビリンスのため。 欠片ほどしか持っていない幸せを、自由を、全て他人のために投げ出してしまう。 ラブとブッキーは、それをせつなが自分に架した十字架だと、罪の意識だと思ってる。 間違ってはいない、けど、それだけじゃない。アタシにはわかる。それがせつなの優しさなん だってこと。 「せつな、無理よ。あなたではどんなに頑張っても、ラビリンスの人たちを幸せにすることは 出来ないわ」 キッとせつなが美希を睨みつける。それだけは、それだけは認められない。 「ならば聞くわ。幸せって何? 夢って何? 笑顔は何から生まれるの?あなたは本当にわか ってるの?」 せつなは悔しそうに、唇を噛みしめながら美希を見つめる。言い返せなくても、視線は決して 逸らさないと。 「幸せはね、自分が一番愛している人たちを大切にすることから生まれるの。夢はね、自分自 身を大切にしようとする気持ちから生まれるの。笑顔はね、その両方から生まれるのよ」 心をこめて、やさしく、そして力強く語る。想いがあふれ出て涙声になりながら美希は続ける。 「自分が一番愛している人たちと交流を断ち、自分自身を傷つけて尽くそうとするあなたは、 自分が笑うことも他人を笑顔にすることも、決して出来はしないわ」 せつなは大きく目を開いて、身じろぎもせずに美希の言葉を聞いていた。 「ラビリンスを幸せに導こうとする気持ちは立派よ。だけど、せつなが一番愛してる人は誰? 一番幸せになって欲しいと願ってる人は誰?せつなが一番幸せを感じる瞬間は何をしている時 なの?」 それは親友。それは家族。それは恩人。それは最愛の人。この世界には居ない人。だからああ するしかなかった。 「私は、私はただ……みんなに幸せになって欲しくて。私と同じ思いを誰にもさせたくなくて ……」 美希はせつなをそっと抱き寄せた。せつなはすがるようにして号泣する。 「まずは、せつな。あなた自身が幸せになりなさい。そして、一番愛してる人を幸せにしてあ げなさい。あなたが心の底から笑顔になれるようになったら、その幸せはラビリンスの人たち にもきっと伝わるから」 すっかり日も沈み、ようやくラブは顔を上げた。ブッキーがずっと隣で背中を撫でてあげてい た。 「ごめん、ブッキー、ありがとう。あたし、もう帰らなきゃ」 フラフラと立って、ようやく美希とタルトとシフォンが居ないことに気がついた。 「ブッキー、美希たんとタルトとシフォンはどこ?」 「わたしも聞いてないけど、何をしにいったのかはわかるわ」 どういうこと? とラブが聞き返そうとしたとき、目の前が光につつまれた。 「ラブ」 「え、え、せ……せつなっ?」 せつなと美希、そして笑顔のシフォンとVサインを決めているタルトが居た。 「ラブ……ラブ、ラブ、ラブ、ラブ」 体を小さくして震えながらラブの名を呼ぶ。何度も何度もかみ締めるように。 「ごめっ……ごめん……ごめっ、ごめんなさい」 溢れる涙、それは悲しみのものではなくて、素直になれた気持ちがこぼれ出たもの。 「会いたかったの。寂しかったの。辛かったの。苦しかったの。甘えたかったの。ずっと、ず っと……」 「我慢してたんだね、せつな。あたしもだよ」 今度こそ、しっかりとせつなを抱きしめる。もう離さない。自分に嘘もつかない。好きなんだ もの。 ずっと一緒に居たいんだもの。 二人の熱く長い抱擁を優しく見つめる美希とブッキー。 「美希ちゃん、おつかれさま。美希ちゃんならきっとできるって、わたし信じてた」 「当然でしょ、アタシ、完璧だもの」 パン! 美希とブッキーがハイタッチ。 「せつな、後どのくらい時間あるの? おとうさんとおかあさんに会う時間ありそう?」 「うん、無理を言って今日一日休みをもらったから。明日の朝までは大丈夫よ」 「良かったわね、ラブ」 「よかったね、せつなちゃん」 せつなは約束した。時間が取れたらなるべく会いに来ること。そして、いつかラビリンスに幸 せが満ちたら、その時はきっと帰ってくること。 美希とブッキーも顔を寄せ合って笑いながら祝福した。 「でも、ずるいな。アタシたちだってせつなやシフォンやタルトと過ごしたかったなあ」 「じゃ、今晩みんなで一緒に泊まっていく?」 ラブが目を輝かせながら提案した。 「そうしたいけど、遠慮しておくわ。おじさんとおばさんが可哀想でしょ」 「うん、わたしもそう思う」 続けて美希とブッキーがハモる。その代わり――「「今から四人で一曲踊りましょう」」 「大会で優勝した時の曲行くわよ、せつな、鈍ってないでしょうね?」 「言ったわね、その言葉、あななたちにそのままお返しするわ」 「よ~し、じゃあ、久しぶりに“クローバー”行くよ!」 「うん、がんばろう」 「声援はまかせといてや」 「キュアキュア」 ――Sun! Sun! 太陽の下 みんなが集まれば~♪―― ありがとう、美希たん、ブッキー、そして、せつな。 あたしたちはずっと一緒だよ。四人でクローバーなんだ。 だから、必ず、一緒に、みんなで幸せGETだよ!